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「awakening」 / 掌編小説

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卵は、回る。
バランスが取れているから、回っても中身は崩れない。

完璧なフォルムの、卵。
君が今卵の中に閉じ込められ、誰かに力一杯回されたらどうだろうか?
多分、正気は保っていないさ。
そう、僕だって。

階段の踊り場から、初夏にしてはヒヤリとした夜気を纏って現れた君に、僕は卵を手渡す。
卵の中身は、陰と陽の混沌。
君は幾分驚いた表情を見せた後、卵を両の手のひらに包む。
そして壊される事があるはずも無いという気配を感じさせる、そんな卵白の常温に干渉する。

淡い干渉。
それでいて、直接的な干渉。
静かに波が打ち寄せて、また引いていくような。
何も起こる事も無いように見せ、変化は常に水面下。
「ほら、それは君だ。
君はその卵の殻を破ろうとして、最後の薄い皮膜の下から陽光を浴びているところだ」
君は卵を大事に両手に包み、それでも自身に落ち着きの無い変化の兆しを感じているだろう。

「よく見てご覧。
見えないものたちは、見えないと思い込んでいるだけなのさ」
無駄に走り回る頭脳による思考、はたまた否応無く受信する心による反応。
どちらが自身にダイレクトだろうか。

君は、瞬いた星の輝きに驚き、卵を手落とした。
踊り場から繋がる階段を、卵は二つ跳ね、その下で美しく真っ二つに花開いた。
...君は、瞬きも忘れる。
壊れた世界の残滓の中には、新しく生まれ育つ全ての要素が含まれていたことに。
君は、瞬きをする。
その壊れた卵殻が包んでいた世界は混沌ではなく、恐ろしく調和がとれた世界だったことに。
そして、人々は我に返る。
理想郷は外側では無く、己の内に育んでこそだという事に。

今君は、君の卵殻を割り、新しく転生した。
「おはよう、案外長かったね?」

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by tuchinoko-sha | 2017-06-13 01:07 | 文芸系